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11.25 自決の日 三島由紀夫と若者たち



   おまえら聞けぇ、聞けぇ!静かにせい、静かにせい!話を聞けっ!男一匹が、命をかけて諸君に訴えてるんだぞ。

   諸君は武士だろう。諸君は武士だろう。武士ならば、自分を否定する憲法を、どうして守るんだ!



   昭和45年11月25日、三島由紀夫は彼の組織した私兵集団「盾の会」主要メンバーとともに、自衛隊市ヶ谷駐屯地にて東部方面総監を人質にとり、自衛官を招集して演説させることを要求。
   
   が、あえて肉声で訴えたその言葉は報道ヘリの爆音にかき消され、総監を人質とした行為への反感も相まってか、自衛官には届くこともなく演説は早々に切り上げる他なかった。好奇の目にさらされながらの天皇陛下万歳三唱の後、三島は腹心の学生森田必勝とともに割腹自殺を遂げたのだった。




   三島は、いかに自分の人生を終わらせるかを考え続けていた。

   虚弱で頭でっかちであった少年時代。同年代の多くの男子が出征(そして帰ってこなかった)しながらも、見送った青年前期。

   日本を代表する作家として成功した後、ボディビルや武道に傾倒。遂に、それまで憧れ続けた、彼自身が描くところの「武士」に相応しい外観を獲得し、残すところは自らが語り続けた言葉と彼自身の行動の一致、果たして在りや無しや。

   
   虚弱な男子として生まれ、祖母に溺愛されて育った。外で遊ぶことは許されず、女児の遊びと本を読むことのみの幼年期。「益荒男」などでは、とてもなかった。

   その虚弱を繊細をいじめられ、からかわれたのだ。


   望むと望まざるとに拘らず、そう生まれ、育った。

   されば、死するときは? それは自分で選べるのだぞ。最期だけでもサムライとして、ということさえ。


   時は高度成長期。誰もが豊かになり始めた時勢。持ち家もクルマもテレビも夢ではなくなって。

   が、三島の眼には、西洋文化が日本国を侵食し、日米安保と左派学生運動により国を守るべき国軍がアメリカの傭兵に堕し、美しい日本の象徴が共産主義の毒牙にかからん危機と映る。

   立つべきは今。憧れ続けた英雄になるべき時が遂に訪れり。

   三島は、彼が考える現代の武士=自衛隊とともに、彼が考える美しい日本の象徴=天皇陛下を奉じるため、実際に行動を起こす。

   祖国防衛を任とする民兵組織「盾の会」の結成。自衛隊への体験入隊を繰り返し、現職自衛官の協力者から戦闘行動のレクチャーを受ける。行動なき思想は無意味とばかりに。

   が、彼の「軍隊」は武器を持てるはずもなく、成員は学生ばかり(100人!)。現代の武士と見込んだ自衛官は公務員でもある現実を思い知らされる。

   やがて「盾の会」結成メンバーの学生は、就職とともに脱会を打ち明け、決起を迫った自衛官からは同意を得ることはかなわず。

   もう、居場所はどこにもない。いや、それはあるのだ。就職していった学生のように、時間が来ればマイホームに帰宅する自衛官のように。だが、それは自分の憧れを裏切ることでもある。

   現実の軍隊指揮官としての無能がもはや明らかな自分に、今もついてきてくれる学生の(過剰に)無垢な熱情。自分が殉じてもいいと思えるのは、もはやそこだけなのかも知れない・・・。




  「実録・連合赤軍  あさま山荘への道程」同様、ひたすら史実を丁寧に追った映画です。ドキュメンタリーと言ってもいいのでは、と思うほど。いや、そう思ってます。

    にもかかわらず、日曜美術館の司会も務めている優男・井浦新さん(いい男だなぁ)が演じる三島は、全くイメージと違います。(どこか無理をした)男らしさやマッチョさがないどころか、むしろ中性的なほど。

   相当リアルにつくっているような映画なのに、どうして主人公だけこんなに似せていないのか。昔見た緒方拳の三島はホンモノそっくりだったけど。

   が、途中からこう思い始めたました。三島だけが裸なのだ、と。

   登場人物の中でひとり三島だけが目に映る姿・娑婆での何者かではなく、幼い頃から変えられない観念の姿ではないかと。

   そう思えば、虚弱で繊細な少年が成人したような外見、一方での勇ましくかつ(時には学生たちでさえ困惑する)抽象的な言葉は、憧れに後付けしていったような三島そのものに見えてきました。

   それはクライマックスの壮絶な演説シーンで炸裂してくれました。あの空回り感、ある種滑稽な且つ絶望感の溢れる万歳三唱。いや、役者さんってすごいわ。この男が三島由紀夫でなくて誰だって言うのか。

   三島を信奉し、全く後先を考えない熱情を押し付ける森田青年との心中を見ているようにもとれる、この映画。それでも「行き場を無くした男」の話に見てしまうのは私の「趣味」なんでしょう。


   三島の行動が正しかったのかはわかりません。後の時代から、安全地帯からモノを言うのは簡単ですから。

   ただ、三島の発する「私的な潔癖」が、美しくもグロテスクな居心地の悪さ。二時間があっという間でした。えらいもん見てしまった。


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