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ふぞろいなハーモニー/広島市現代美術館




 先日は「帝国の境界Ⅱ 西方公司」なる映像作品ひとつしか見られず、かと言ってそれが非常に印象深かったので、もう一度見に行きたい、とまた行ってきました。「ふぞろいなハーモニー/広島市現代美術館」。
 
 が「帝国の境界Ⅱ 西方公司」は70分もあるので、モタモタしてたらまたこれしか見られなかったというのも大ありで。時間を都合した上に強めの雨模様というのもあって、いつもは広島駅から20分くらい歩くところを路面電車に乗りました。早く行かなきゃ。


  
 その甲斐あって、「帝国の境界Ⅱ 西方公司」をもう一度見て、他の展示もほぼ見ることができました。
 
 その中で非常に印象深かった、韓国のサイレン・ウニョン・チョンさんによる「私は歌わない」。
 
 重い作品でした。って、たいてい重いんですわ現代美術館は。アンケートに「たまには重くないやつもどうでしょう」って書いちゃいましたもん、今回。
 
 それはそれとしてこの作品。一つの作品が映像版と実物の2種あって、ちょっとややこしいです。順番通りでは映像版→実物
①映像版:本人がこの美術館で演じたパフォーマンスを撮影した映像作品(でっかいテレビで流してる)
②実物:そのパフォーマンスを行ったセット(当然本人は不在だけど、順路で既に①を見てるので、不在の本人を想像しながら見る)





 私は初めて知ったのですが、女性のみが演じる韓国の伝統(1950年代が最盛期だったとか)歌劇「ヨソン・グック」というものがあるそうです。女性が男女を演じるという点は、宝塚(?)的な感じなのかと無理やりな理解をしかけたのですが、その社会的地位はちょっと違うようで。

 なんでも、その劇団の花形(悪役の男性を演じる人以外、といった感じらしい)は、今で言う枕営業的なことも強要されていたようで、華やかなステージとは裏腹に世間からは冷たい目で見られ、それは生涯続いたそうです。
 
 このパフォーマンスは、役者&女性の誇りを全うするために、悪役男性を演じ続けた女性の独白、という形のもの。
 
 歌う=花形→枕営業から逃げられない。ならば、歌わない=花形には決してなれない→だが、役者としても女性としてもプライドを守れる、ということです。なんにせよ、相当な葛藤があること、想像に難くありません。
 
 
 映像作品。
 
 向かって右。いかにも舞台役者然とした濃いメイクの悪人面と派手な衣装の男性が投影されています。名を名乗り、役者が天職であり主役の座を焦がれながらも、それと引き換えにするものの大きさから、歌の練習を一切拒否してきた(=自ら主役への道を閉ざした)ことを情感豊かに語ります。
 
 向かって左。気品と威厳を感じさせる婦人が現れ、優美な振る舞いで腰かけます。そして、自らが演じる悪役の独白に呼応するようにつぶやきます。
 
 「私は、歌を歌いません」
 「私は、歌を習いません」
 「私は、妓生ではありません」
 
 右の「男」は、脇役である自分の見せ場を演じてご覧に入れましょうと我々に語りかけ、その準備を整えながらつぶやきます。「スポットを浴びるスター・・・!私も憧れた。愛を歌い上げる主役たちに」。そして決して練習してこなかってはずの、主役たちが歌う「愛の歌」を誰にともなく歌います。
 
 左の「女」も歌います。「男」に合わせて、つぶやくように。
 
 
 韓国らしい、どことなく哀調を帯びたメロディ。練習してこなかったはずなのに、決してそうは聞こえない練度。
 
 
 右の「男」が我々に向き直りました。「さぁ、準備ができました。私の最も得意なシーンをご覧ください!」。晴れがましく言った次の瞬間、彼は無垢な娘を恫喝する憎々しい権力者に早変わりします 「わしの妾になれ! 言うことを聞かぬなら、死ぬよりも辛い目にあわせるぞ!」
 
 そのセリフは、左の「女」のつぶやきとやがて呼応していきます。
 
 「わしの言うことが聞けぬのか!」
 「・・・私は、そんな女ではありません」
 「ええい、強情な女め!生意気な!」
 「・・・私は、そんな女ではありません」
 「こいつを肉が見えるほど鞭打てぇ!ひざまづかせてくれるわ!」
 「・・・私は、そんな女ではありません」
 「・・・・(荒い息と、意思を強制できなかった無力感と憤怒の表情)・・・」
 「・・・私は、歌を歌いません」
 
 
 
 映像を見終わった後、壁面に当時の歌劇団の写真がいくつも展示されていました。大きくはないながらも華やかであったであろう舞台、オフの全員が女性である素顔、公演後の記念写真風の一枚では悪役が端っこに小さく写って。

 それが途切れると、さきほどの映像作品の実物が左側の女性不在のままで上演され続けていました。彼女の独白は字幕で。
 


 
 
 短い作品なのですが、これも重かったなぁ。男性社会のいびつさ、役者としての諦念といった何重にも屈折させられながらも真っ直ぐなプライド。
 
 あー、これも見てよかった。



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