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迷子の警察音楽隊


 
 
 砂漠の中に突然それだけがあるような空港に降り立ち、一向に来ない迎えを待つ男たち。
 
 いかめしいデザインながらも、あまり大人が身に着けないような空色の制服をまとった彼らは、エジプトからやってきた警察音楽隊。
 
 少人数と侮るなかれ。ついこの間まで戦争状態にあったイスラエルへの文化交流大使、誇り高きアレクサンドリア警察音楽隊なのだ。
 
 もっとも、誰も迎えに来ず、ロクに言葉が通じないことを承知でかけたイスラエルの役所から全く相手にされなかったことからも、少々侮られる程度の存在であることが垣間見られるよう。
 
 実際、楽団の存続はちょっと心配なところもあるみたい。それでも隊長のトゥフィークは、その謹厳なルックス同様、片意地をはってエジプト大使館に連絡を取ろうともしません。
 
「われらは誇り高き楽団なのだ。これまでも、我々自身の力でやってきた」
 
 ・・・案外、それが今日(そして近未来)の窮状を招いているのやも知れず。

 独力で目指す街へのバスに乗ったつもりが、一文字違いの別の町へ。宿も帰りのバスもない、砂漠の中に人工的なアパート群があるだけの小さな町へ。

 一人で食堂を切り盛りしているちょいとセクシーで美人のディナ(若い、という年齢ではない)が、彼らのプライドを傷つけないよう言葉を選びながら、今夜の宿を世話してくれることになりました。カタブツのトゥフィークのおかげで、なかなか簡単ではなかったとは言え。
 
 トゥフィークと、遊び盛りの若いカーレドはディナのアパートへ。その他の隊員はたまたま居合わせた常連客の家に二手に分かれて。いや、常連客は正直迷惑がっていたりして。

 全く知らないもの同士、しかも初めて間近に見る「敵国の市民」。急に来られても、こんな砂漠の町にもてなしなんて、そんなにはできません。そもそも、そんなに歓迎してるわけでもないんですから。
 
 こんな町にはちょっと不釣合いな派手さのディナは、あまり幸福とは言えない日々を送ってきた女性のようです。親切心、というよりは寂しい自分の話し相手が欲しかったようにも見え。
 
 謹厳そのもののトゥフィーク。正しいと思っていた自分のせいで、数年前に家族を失った痛手を抱えていました。
 
 その他の面々も、それぞれにぎこちなくコミニュケーションをとりながら、あるいはうまくとれずに、居心地のあまり良いとは言えないイスラエルの夜が更けていきます・・・。
 
 
 90分弱の、短い、さりげない映画でした。
 
 劇的なことは起きません。まるで映画じゃないみたいに。
 
 ただ、楽団員、食堂の女主人といった匿名の誰かから、謹厳そうに見えて釣りの話をするときは少年のようだ、とか、幸福な結婚が叶えられなかった、今は不倫をしているといった風に、少しづつ一人ひとりの顔がぼんやりと見えてきます。
 
 そして、恐らくもう二度と会わないであろうこの女性と、または男性と、この寂しさを互いに慰めあえれば・・・というゆらぎも。
 
 それでも、劇的なことは起こせませんでした。多くの現実がそうであるように。

 ただ、予定通り開かれた演奏会でトゥフィークが歌った恋の歌。迷子になった一夜があったからこそ、あんなに情熱的に歌われたのだったら、素敵です。

 それでも彼はこう言うかもしれません。
 
「何も起きはしないさ。映画じゃあるまいし」、と。
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