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あの夏、いちばん静かな海

あの夏、いちばん静かな海05

 少し変わった映画でした。
 
 見始めて随分経ってから気が付いたのですが、なんか動かないんです。固定されたカメラでそのまま映しているようで、同じ視点がずっと続きます(映画見て初めてそんなこと考えた)。画面の左から現れた人は、そのまま歩いて行って右端に消えていきます。見ている側は、道路の反対側からずっと眺めてるような感じ。

 こんな感じの画面って、あんまり見たことがないなぁと。

 普通、映画やドラマって、手元がアップになったり、急に空からお城全体が見えたり、走ってる車を前から見ていたりとか、見ている人に代わって(人ができないような位置や速さとかで)画面がよく切り替わりますが、そういったことがほとんどないのです。

 なんか妙だけど、これは普段の人の速度、視点そのものなのかなと思ったのですが、それでも残る違和感が「ずっと同じ方向が映されてる」ことでした。いくら道路の反対側から眺めていても、左から来た人に視線を移したりくらいはやりますが、それすらもありません。ただ、同じ方向がずっと映され、それを見るのみ。

 思ったのですが、「普通の」映画とかで視点や速度が自在に変わるのは、「見てる側」として映画に参加するためなんでしょうか。登場人物に感情移入したり、物語に入ったようにドキドキしたり、と。

 しかしてこの映画は、そういう参加もできないような感じ。世間から少し距離のある、いじらしい恋人同士を遠くから見守ることしか許してくれないような。

 そういう意図だったのかはわかりませんが、他の映画では感じないような気持ちのざわめきに終始浸されていました。



 二十歳過ぎあたりに見える主人公・シゲルは、神奈川の海辺の町で暮らしていました。仕事はゴミ回収員。親子ほども年の離れた田向と二人で、ゴミ回収車で町を廻ります。

 あまり仕事熱心には見えないシゲルを田向はよく思ってはいないようです。加えてシゲルはまったく話さず、田向の話も聞いてるのか聞いていないのか。
あの夏、いちばん静かな海00

 ある日、ゴミ捨て場にオンボロのサーフボードが捨ててありました。彼らが回収する類のゴミではないのですが、しばらく視線が外せないシゲル。田向に促されて回収車に乗りますが、画面中央から走り出した回収車は右端で停まりました。駆け降りてきてサーフボードを手に車に戻るシゲル。

 シゲルの部屋。端の折れていたサーフボードを削った発泡スチロールで補い、つなぎ合わせるシゲル。仕事の時とは違って、熱心な表情。


 休日の朝、なのでしょうか。年相応のおしゃれをした二十歳前後の女の子が、あまり立派とは言えない公団住宅の前で待っていました。修理したサーフボードを抱えて出てくるシゲル。二人は恋人なのでしょう。

 サーフボードを抱えたシゲルと、その端を持つ彼女が画面の左端に現れ、右端に向って歩いていきます。私たちの歩く速さで。
あの夏、いちばん静かな海01

 広場でサッカーをしている男の子が囃したてますが、すぐに他の連中にたしなめられます。「聞こえないんだから、何言ってもダメだよ」

 ・・・シゲルは聾唖だったのですね。

 シゲルの後を歩く彼女。とても嬉しそうで、シゲルのことを大好きなのが伝わってきます。なんか、このシーンだけで少し泣いてしまいました。いじらしくて、健気で。

 近くの海辺で服を脱ぎ、海に出るシゲル。彼の脱ぎ散らかした服を幸せそうに丁寧に畳む彼女。微笑みながら、海を見つめます。
あの夏、いちばん静かな海04

 シゲル、初めてでもありなかなかうまくいきません。当たり前です。なのに砂浜にたむろしてる(ちょっと軟派な)地元のサーファーたちはそんな彼を冷笑します。「ウエットスーツも持ってねぇの」「なんだよ、あのボ-ド」「ヘタだねぇ、終わってるよ」・・・。

 シゲルも彼女もそんな空気を全く意に介さないかのよう。また二人で帰って行きます。画面の右端から左端へと歩きながら。


 二人は何度も近くの海に行き、それを繰り返します。シゲルは海へ、彼女は服を畳み微笑み。が、サーフボードは折れてしまいました。砂浜の一角で嘲笑する地元サーファーたち。

 折れたサーフボードをゴミ捨て場のドラム缶に苦い顔で入れるシゲル。二人はまた帰って行きました。

 町のサーフショップに出かけます。店の前で何枚かのお札を無造作に取り出し、彼女に渡したシゲルは外で彼女が店員と話すのを見ています。少し困惑している店員は一度引っ込んで店長に相談しています。
「なんか、話が出来ない女の子が8万のボードを6万にしてくれって」
「ダメだよ、帰ってもらいな!」

 彼女も聾唖者だったのでした。とぼとぼと帰る二人。

 給料日。シゲルは彼女と再びサーフショップへ。中古ながら13万ちょっと。奮発です。

 二人を見送った店長。
「こないだの耳の聞こえない二人、もう少しマケてやりゃよかったかな・・・。アキラの店じゃ9万8千円なんだ」
その頃、シゲルと彼女は 「アキラの店」のウインドーを眺めながら、苦い顔をしていました。

 日も暮れかけ、混雑したバスが来ました。サーフボードを持っては乗れないと言われ(それに気づくのが少し遅れるのが痛々しい)、自分だけが降りてバスの外から小さく手を振るシゲル。こわばった顔の彼女を乗せ、バスは走りだします。駆け足でその方向に走るシゲル。

 バスはもう、ずいぶん走りました。一人降り、二人降り、シゲルを想ってか立ったままの彼女を残し、とうとうバスは空っぽに。目的地なのかそうでないのか、バスを降りる彼女。一生懸命にバスとは逆の方向に走ります。

 やがて出会う二人は、肩を寄せ合って歩き始めました。よかった、本当に。これだけのシーンなのに涙が出ます。

 シゲルの上達は目覚ましく、浜辺の連中も一目置くほどに。ただ、相変わらず距離を置き、ウェットスーツすら持ってないシゲルをやや好奇の目で見続けています

 サーフショップの店長が砂浜にやってきました。元々は地元のサーファーで、浜辺の連中は彼の後輩たち。安値で売ってくる「アキラの店」に押され気味ですが、自分が少々商売っ気を出し過ぎていることにちょっと後悔している様子。そのきっかけは、多分シゲルからボッたことでしょうか。

 店長、シゲルにウエットスーツをプレゼントし、近く千葉であるサーフィン大会の申込書を渡します。


 フェリーで千葉に向かう二人。でも、港からはとても歩いて行ける距離ではないみたい。親切な軽トラのおじさんに乗せてもらいます。
あの夏、いちばん静かな海08

 あぁ、でもサーフィン大会には結局出場できませんでした。音の聞こえない彼らには、自分たちを呼び出す声がとうとう届かなくて。ずっと浜辺に座って待ち続けて、待ち続けて。

 帰り道。あまりの遠さに座り込む二人の前に、遅れてきたサーフショップの店長の車が止まります。その後ろには、浜辺の連中の車も。


 浜辺。もうシゲルたちは一人ぼっちではなくなっていました。彼らが一緒に波に乗り、店長が教えてくれて。上達していくシゲル、微笑んで見つめる彼女。

 突然、田向が現れました。仕事ほったらかしているシゲルを連れ戻しに来たのです。激怒する田向ですが、ひっぱたく手を緩めて「バカタレ!」と一言。「とにかく仕事はしろ!」と、そのままシゲルを連れて行きました。まるで父親、です。心配してくれていたんです。
あの夏、いちばん静かな海07

 次の大会が近づいてきました。田向、所長にシゲルの休みを頼み込みます。欠員の補充はしないと冷たい所長に、「俺一人でやりますから」と、田向。目立たないかもしれませんが、シゲルを応援してくれます。


 再びの千葉。前とは変わりました。店長の車に乗り、仲間が出番を教えてくれ、そして入賞。浜辺で仲間と写真を撮りました。仲間はシゲルと彼女二人だけの写真も撮ってくれました。幸せな帰り道。フェリーのデッキで小さなトロフィーを見つめて微笑みあう二人。ちょっとだけ物静かになった仲間たちも、少し大人になったように見えました。
あの夏、いちばん静かな海02

 あぁ、この物語がここで終わってもよかったのに。もしくはありふれたハッピーエンドでもよかったのに。





 もう三十年近くも前になったんですね、この映画。初めて見ました。冒頭書いたように、少し変わった感じなのですが、いじらしい二人を随分遠くから眺め続けるもどかしさと、あまりに普通の(映画のような感じのしない)風景が、見終わった後も残り続けています。

 そして社会的には強者とは言い難い二人が傷つきませんように、悲しい目に遭いませんようにと祈るようにと見続けるので、ちょっとしたシーンで涙がすぐに出てきました。

 シゲルと彼女は周りをまるで気にしないようにも見えるのですが、そんなはずはなく、そういう態度を身につけるに至るまでにどれほどのことがあったのか、どうして二人が互いに心を許すようになったのか、とあまり動かない画面を見ながら、そんなことも思い続けて。

 画面は青く、セリフは少なく、音楽はとてもきれいです(久石譲なんですね、そんなことも知りませんでした)。そしてエンドロールがものすご素敵でした。

 胸に残る、いい映画でした。またいつか、見よう。

あの夏、いちばん静かな海03
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コメント

非公開コメント

こんばんは

真木蔵人の出演作は「キリン POINT OF NO-RETURN」が気に入っています(マニアックですけど)。
北野武監督作品なのですね。今度見てみたいです。
紹介ありがとうございます。

オカパチさん

オカパチさん、こんにちは。コメントありがとうございます。

本作での真木蔵人、素晴らしかったです。ご紹介の作品、探してみますね。近所のツタヤにあるかなぁ・・・。

こんばんは。

私もこの映画好きです。音楽も。
私の周りにはサーフィンをする人がけっこう
いましたので、あの雰囲気も懐かしくて。

全体的に静かで物寂しげな感じがしますが
けっして陰気なものではなくて。
なんて言うのか…心地の良い寂しさ?がしました。
でもラストはハッピーエンドがよかったですね。

mikotoさん

mikotoさん、こんにちは。コメントありがとうございます。

mikotoさんもご覧になっていたんですね(*´ω`*)。周りにサーフィンをされる方がけっこういた・・・、あんな雰囲気だったのでしょうか。サーフィン大会って、こんな風にやるんだって見てて思ったのですが、あとで思うと本物の大会をそのまま撮ったようなリアルさ&飾り気のなさでした。

心地よい寂しさ、その通りですね(*´ω`*)。でもあんな悲しい終わり方させなくてもなぁ・・・。