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あ・うん

あうん01
 実らないと分かってたって、人は惚れるもんなんだよ・・・。


 昭和12年、春。東京。

 上着は脱いでいるものの、高級そうな三つ揃いの背広を着た長身の壮漢(しかも二枚目)がきびきびと日本家屋の掃除をしております。窓を拭き、床を磨きあげ、米びつを満たし、風呂まで沸かし。その出来栄えに満足した彼は、運転手付き自動車の後部座席に乗り込み去って行きました。

 高倉健さん演じる、その男の名は門倉。決して小さくはない会社の社長です。

 門倉が整えた家に入るは、若き日の軍隊時代からの親友・水田(板東英二さん)一家。門倉とは違い短躯で愛嬌のある彼に不釣り合いなほどの美しい妻(富司純子さん)と娘(富田靖子さん)の三人。

 サラリーマンの水田は各地方の支社長を歴任してきた転勤族。東京~地方、また東京に戻ってはまた地方といった暮らしを2・3年の周期で繰り返してはじりじりと出世をしてきた様子で、東京に戻るたびに門倉が借家を探したりなど何かと世話を焼いている模様です。

 肝心なのは、その関係の微妙なこと・・・。

「ホント、門倉のおじさん素敵♪ 背が高くてカッコよくってお金持ちで」と、娘のさと子が無邪気にはしゃぐのですが、「門倉」の名が出るたびにどこか華やぐ美貌の妻・たみ。それを知りながら聞き流す水田・・・。


 門倉と水田夫妻の付き合いは20年以上とか。少なくとも水田とたみが結婚してからはずっと。

 18歳のさと子の目にも明らかなほど門倉はたみに友人の妻以上の好意を持ち、たみも門倉を慕っています。当然、水田はそれに気づいていますが、黙認しているのです。時には「門倉があそこまでしてくれるのは俺のためじゃない。たみ、お前の泣く顔が見たくないんだよ、あいつは」とすら口するほど。

 が、門倉はたみ会いたさに水田と付き合い続けているわけでは決してありません。2人で会い、酒を飲み騒ぎます。

 互いの絆を語るときに出てくる軍隊という時代。何があったかは触れられませんが、スマートな門倉と叩き上げの水田の若き日に色々なことがあったのでしょう。一生付き合いたいと思える信頼を生む日々が。

 深い友情で結ばれた門倉と水田はともにたみを愛し、たみは家庭人として水田を愛し、女性として門倉を愛しているのでしょうか。

 それは少しでもバランスを欠くと崩れそうな危うい均衡。「壊したら、もう会えない」ことで、各々が気持ちを抑え続けている暗黙のルールのようにも見えます。
あうん07


 門倉には、君子という妻がいます(子供はいません)。豪奢な洋館の中で退屈をもてあまし、門倉がたみにこころを寄せていることで傷つき続けている妻が。門倉との関係が冷え切ってしまっている妻が。

「私も皆様のお仲間に入れて下さる?」。頼まれもしないのに、さと子に縁談を持ってくる君子。
「石川さんといって、立派な家柄で帝大をご卒業予定の方なのよ」・・・。夜間中学卒の水田の劣等感は刺激されます。困惑するたみと苦い顔の門倉。

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 が、実際に会ってみると門倉の若き日もかくやと思わせる好青年。2人は惹かれ合いますが、父・水田は家柄の違いを理由に破談を宣します。寝込んでしまうさと子にそっと詩集と枇杷(さっき自分で調べたら「ひそかな想い」なる花言葉でした)を差し入れる石川青年。・・・許されざる恋を知ることで、さと子は門倉たちの心情を垣間見ることとなりました。


 ・・・交友が続く中での出来事は、際どい均衡の上であるがため彼らの心をかき乱します。

 水田の元上司の横領を(水田のキャリアに傷をつけないために)隠ぺいすべく大金を融通する門倉、門倉が合わせた売れっ子芸者に入れあげてしまう水田、たみを悲しませまいとなんとその芸者を囲うことで水田から遠ざける門倉、水田夫婦の早とちりからさと子が石川青年と心中するのではと訪ねた温泉地ではからずも実現する大人の遠足等々・・・。

 しかして危ういバランスはついに崩れました。己の気持ちを抑え続ける自信を失いかけている門倉が、水田との決別というやり方で慕情を断ち切ろうとします。その心情、たみは知り水田のみや知らず。

 水田家から足が遠のいた門倉をさと子がカフェーに呼び出します。好きになってはいけない相手を想う先輩である彼を。

「門倉のおじさんは、お母さんを好きなの・・・?」
 若さゆえのあまりのド直球に、一瞬苦い顔の門倉は、さと子の焦がれる青年へと話を逸らします。

「さと子ちゃん・・・。人生にはね・・・、人生にはね、あるんだよ。・・・あきらめなくっちゃならないことが」
「元気出そう・・・!・・・人生ってね、人生って、もっといいものなんだよ!」。・・・門倉、果たしてその言葉はさと子に向けたものであったや否や。

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 そして、門倉は「神さま」に会いました。名もしれぬ怪しげな男(実はスリでした)と屋台で一杯やりながら。
「・・・惚れてるな。会っちまえばいいんだよ。もう会わないかどうかなんて、その後決めりゃいいんだよ。後悔するぜ」。・・・後悔、か!

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 時局は急を告げ、石川青年の招集、水田のジャワ転勤が決まりました。もう、時間は残されておりません。雪の夜、門倉が、石川青年が水田家を目指します・・・。


 
 ブロ友さんがご紹介されていた予告編。健さんの含羞を隠しきれない笑顔がとっても素敵で借りてきました。
あうん06

 いや、実によかったです(*´ω`*)。軽やかにテンポよく、少ない登場人物にしぼってのわかりやすく美しい画面。健さん、何かを言いかけては押し黙る表情、一瞬の目力がものすごく豊かで素敵でした。こんな男に惚れない女はいないことでしょう。いや、男も。

 全てにおいてと言っていいほど門倉に遅れをとっている水田ですが、門倉が焦がれる女性を妻にしているいう切り札こそがプライドを支えているのかもしれません。

 そして、たみ。良妻賢母の一方で、美しく可愛らしく。これは惚れるわ(*´ω`*)。

 3人が各々自分を抑えて抑えて。いくつものエピソードから成る映画なのですが、色っぽい場面は皆無、ハリウッド映画のような大げさな事件も起きないという映画そのものも抑えめです。昭和12年という今とはまるで違う時代ながら、なんか昔の日本人の良さみたいなものを感じました(幻想かもですが)。

 そして、門倉は考え過ぎるのをやめました。淡々と美しい心像風景が続く中、少し衝撃を受けた次第。そうか、そうなんだ。後悔のないように、シンプルに。

 恋愛モノってほとんど見たことがなかったのですが、正月早々いい映画を見ることができました。mikotoさん、教えてくださってありがとうございました(*´ω`*)。
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コメント

非公開コメント

No title

一時期、亡くなった後向田邦子の親族が向田邦子の写真集&ヒストリー本を持っていたので
代表作のこの物語の存在は良く知っていたのですが…
ドラマ化された事が有りましたっけ?それがつまらなく感じ
途中で観るのやめちゃったんですが、こういう物語なんですね。
Homeさんの詳しい解説で映画に興味持ちました。
今、朝ドラに母親役で出ている富田靖子、可愛いですよねぇ。
結婚した時はショックでした。
と、本人が自分のルックスに自信が無いというコンプレックスを
最近知りました。
それにしても年末の涙、お父さんの寂しい哀愁につられて
考えてしまいました。一緒に居るのに淋しい…。

No title

映画のタイトルは知ってましたが、せつない映画ですね。
今の世ならW不倫となってしまうのかも・・・(;^_^A

なんとなく身に覚えのある内容でもあり、入り込んでしまいました。笑
紹介ありがとうございました。

No title

homeさんの解説すごい!
観たい観たい!!
健さんってかっこいいですよねぇ
寡黙なことが男らしい。今の時代ではすでに遺産のようなものでしょうか。
私生活はわからないけど、あのイメージのまま健さんみたいな人が伴侶だったら、
ものすごく疲れそうな気もしますね

太郎さん

太郎さん、こんにちは。コメントありがとうございます。

いや、私なんて向田邦子作品に触れたの初めてでした(*´ω`*)。と、思ったら「寺内貫太郎一家」の作者さんだったんですね。初めてではなかったか。

記事にも書いたのですが、健さんのはにかんだ笑顔がまぁ素敵で。素敵なブロ友さんの記事で拝見した予告編見て「お!」と思いまして。

富田靖子さん、あんなに可愛らしいのにコンプレックス・・・。BABEってスマッシュヒット放った日本人デュオの片方が似てたっけ。どうでもいいですね、すみません(*´ω`*)。

お父さんの情けなさ、色々考えます(´・ω・`)。そのうちまとめて書こうと思いながら。

ミコリーさん

ミコリーさん、こんにちは。コメントありがとうございます。

健さんが言葉を選びながら「さと子ちゃん・・・」って話すところが良くてねぇ(*´ω`*)。色っぽいシーンが全くないために、一層切ない映画になったような気がします。

身に覚え・・・。まぁ!

レモングラスさん

レモングラスさん、こんにちは。コメントありがとうございます。

いやお恥ずかしい(*´ω`*)。でも、意外に重くなくてキレイないい映画でした。

健さん、以前ドキュメンタリーで見たら「普段の俺は映画とは全然違うよ」って笑ってました。でも、やっぱり映画の健さんはかっこいいですよね(*´ω`*)。リアルがああだと、たしかに疲れるでしょうねー。本人も周りも(*´ω`*)。