FC2ブログ

グッバイ、レーニン!


 
 
 ベルリンの壁が崩壊し、吸収されるように西側化がすすんでいく東ドイツ。そこに、旧体制時そのままの一室がありました。
 
 部屋の主は余命いくばくもない女性、クリスティーネ。社会主義を称える教師を長く勤め、今は大きなショックを覚えると命の保証はない、という身でベッドに横たわっているのです。
 
 東ドイツの崩壊も知らず・・・。
 
 10年前のことでした。旧式のテレビが伝えた、東ドイツ初の宇宙飛行士。その国家の栄光の一方で、愛する夫が西ドイツ女性の元へ走って亡命を。
 
 心が壊れてしまったクリスティーネは数か月の入院後、「(息子・アレックス曰く) まるで社会主義と再婚したような」熱心な教師となり、夫のことは一切口にしなくなりました。
 
 当時10歳だったアレックスも今や立派な青年に。勤めていたテレビ修理屋は壁崩壊とともに潰れ、今は西から来た映画監督志望の新しい相棒(この後、大活躍!)と組んで衛星テレビの取り付け業で頑張ってます。
 
 そして大学生だった姉は(壁の崩壊前には想像もできませんが)バーガーキングでのアルバイトを始め、恋仲になった店長が住み込んできました。
 
 二人の職業もそうですが、街には戦勝国の旗のようにコカ・コーラの広告がはためき、BMWが走ります。無愛想でモノのなかったスーパーは、西側資本で一夜にして買い物天国に。
 
 一方、旧体制下で食べていた人(母、クリスティーネのような教師だったり)は職を失い、みんな貧しかった平等から、徐々に持つ者と持たざる者に分けられ始めてもいます。
 
 母がベッドに縛り付けられているのも、そもそもは8か月前の夜、壁の解放を訴えるデモに参加していた愛する息子・アレックスの姿を見たショックから。そりゃ、そうでしょう。「再婚」した社会主義を息子が否定してるんですから。
 
 医師は姉弟に言います。
 
 「気の毒だが、お母さんはもう目覚めないかもしれない。もし、目覚めたとしてもその命は長くはないだろう。そして、お母さんにショックを与えると、そこでお別れになる」
 
 ・・・。夫亡命の後、母がどれだけ尽くしてくれたか、姉弟は知っています。そして、母が眠っている間に、愛するドイツ民主共和国が姿を消したことも。
 
 看病を続けながらも、若い二人にとって資本主義の商品やサービスはとてつもなく魅力的です。親子が暮らしていた部屋は、他の東ドイツの家同様に、すっかり西側の調度に。
 
 ・・・母が目覚めました。ヤバイ!!!! この眠り姫には、テレビもラジオも街の風景も、そもそも帰りたがっている(当然だ)部屋も見せられません。
 
 どーするよ、アレックス?
 
 大急ぎで部屋を元に戻し、母の昔の知り合いを集めて誕生日を祝い、新しい相棒の力を借りては大ウソのニュース映像をデッチあげ、母に東ドイツの健在を疑わせません。母ちゃんが好きだった(=もう手に入らない)東ドイツのピクルス求めて、赤いバイクよ、走れ走れぇぇぇぇ!!
 
 しっかし、いつまで続けられるのか。アレックスの奮闘は次第に周りからも浮き始め、コカ・コーラどもの進軍の速さには、母をだまし続けるのにもさすがに苦しくなりはじめ・・・。
 

 
 
 これは面白かった! ラストにいたるプロセスには泣けました。もう、深夜のリビングで泣いた泣いた(笑)。
 
 過去や変えられませんが、記憶は変えられる・・・かもしれないんですね。そして、自分の知らないこともたくさんあって、人の気持ちはみんな各々で。
 
 主人公のあんちゃんの純情はとてもとても愛おしく、すべて呑みこんで頼もしげに見つめるお母さんのまなざしも素敵でした。
 
 社会主義をここで云々するのは控えますが、美しい理想を実践しきるために欲望を制御することがいかに困難か。それを社会という単位でやるには、やはり無理があったのか。少数の人が大勢の人を御するのに、暴力は不可欠なのか。
 
 ただ、理想の美しさは言葉とともに残ります。残念ながら、多くの血と、痛みと、美化されたわずかな郷愁とともに。
 
 温かく、美しく、そして危険な映画に感じました。見方を変えれば、その残酷さを郷愁にくるんで連れてきかねない危うさがあるようで。
 
 それでも、そんな感じ方も、きっと織り込みずみなのでしょう。遺された人たちの幸福を切なく祈りたくなるような、ナイーブな一本。
 
 
 見てよかった。
関連記事
スポンサーサイト



コメント

非公開コメント

No title

いい映画でした。心ならずも退職し、今頃卒業式をやっているんだろうなと思いつつ恵比寿ガーデンパレスで観たのを思い出します。

No title

金魚さん、こんにちは。はじめまして。コメントありがとうございます。
先生、をしていらしたのでしょうか?心ならずも…、とのこと、この映画と重なる何かがおありだったかも知れませんね…。

私も、いい映画だったと思います。