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ジャーヘッド


 
 スオフォードは大学に行きたかった。恋人との未来も描いていた。だけど、家庭環境はそれを許さなかった。
 
 スオフォードは海兵隊に入った。実際、他の選択肢はなかったのだ。
 
 海兵隊ってところは、決して夢のあるところではなかった。そりゃ、想像はしていたけれど何も考えていないような野卑で乱暴な馬鹿野郎の集まりだ。
 
 早速入隊初日から、「歓迎」なるリンチ。上官の一声には無条件で服従するように、罵詈雑言と嘲りと怒声の嵐。しかも、訓練はガチの暴力。そりゃそうだ、殺し合いに勝つエキスパートを養成するんだから。
 
 スオフォードは理解した。こいつらは、野卑で乱暴な馬鹿野郎ってわけではないんだ。ここでは、上官(それはさらにその上の)命令に即座に反応し、命を惜しまない匿名の戦闘マシーンになることが求められているんだ。
 
 海兵隊の連中は「ジャーヘッド」と呼ばれている。頑丈な外側とカラッポのオツムってことで。
 
 スオフォードは徐々に「ジャーヘッド」の一員になっていった。仲間たちもみんな人間だった。匿名なんかじゃなくて、故郷には残した家族も恋人もいるし、浮気だって心配だ。こんなところに来るくらいだから体力には自信がある一方で、男ばかりの禁欲生活なら、そりゃ野卑にもなる。
 
 人間なら、若い男なら、当然そうなる。 当然。
 
 
 スオフォードはプロの狙撃兵の実力をモノにした。数百メートル先の標的をも撃ちぬく技術と、セルフコントロールを。ただ、人を撃ったことは、まだない。撃ってみたい、スコープの中で赤い飛沫が咲くのを見てみたい。
 
 入隊時に「異邦人」を読み、下剤を飲んで訓練を回避していた青年の姿は、もう、ない。屈強で野卑な荒くれ者「ジャーヘッド」がそこにいる。
 
 
 遂に出撃命令が下る。敵はサダム・フセイン、戦場は砂漠。なに、3日もあれば帰れるだろう。
 
 
 行ってみると、そこは別の天体だった。灼熱と砂のみの。そう、あるのはそれだけ。戦争に来たはずなのに、「敵」すらいないのだ。
 
 監視は怠らないものの、一向に敵は現れず、ひたすら待機する毎日。ハイテク兵器が派手な戦果を挙げる一方で、最終的に地べたを制圧する地上部隊のやることは「その時が来るまで待機」するということだったのだ。暑さと、神経ガスへの恐怖と、恋人の浮気への怒りと、そうしたイラつきを報道しないマスコミ取材の中で。
 
 「ジャーヘッド」でなくて、正気を保てるのか? ここで人間が過ごせるのか?
 
 過酷な環境の中、少しづつ理性が崩れ始めるジャーヘッドたち。突如始まる戦闘は、彼らの理性の許容範囲を超えて・・・。
 
 
 
 第一次湾岸戦争末期に現場に配備された海兵隊員さんの手記を映画化したものだそうです。
 
 つまり、実話です。
 
 派手なドンパチはほとんど出てこず、普通の青年が戦闘マシーンになり、ハイテク兵器によるテレビゲームまがいの「戦闘」がテレビで繰り返されていたその下の地面で、何が起きていたかを淡々と見せられ続けます。
 
 劇的な展開もありません。ドキュメンタリー映画でも、もうちょっと盛り上げそうなものを。
 
 元々「普通の男性」を訓練して戦闘マシーンたちに仕立て上げ、現地で指揮をとる班長連中は、戦場という極めて特殊な環境化でのプロフェッショナル・マネージャーでした。おびえ、正気を失いかける部下を瞬時に修理して、マシーンに引き戻します。
 
 「オレはこの仕事が好きなんだ」、そう言い切る彼ら。戦争を「仕事」と理解できる彼らは決して「ジャーヘッド」ではないのでしょう。
 
 変わった映画でした。ある仕事の現場を淡々と追いかけたという趣きと、それが極めて過酷な仕事であるギャップが。面白かったか、と言われれば答えにくいのですが、見てよかったと思っています。
 
 戦場の経験は、もうそれまでの人間でいられなくなることでしょう。そしてその「真空地帯」では、「ジャーヘッド」となるしか、生きて適応することは不可能ではないかとさえ思いました。
 
 私は、とても生き残れそうにありません。もし、できたとしても、もう普通の生活は送れないでしょう。
 
 怖い映画でした。いや、怖い実話です・・・。
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