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クラッシュ



 人種差別と暴力がそれほど珍しくない街、ロサンゼルス。


 黒人の刑事(独身)は、心を患っている一人暮らしの母親に悩んでいた。自らの不運も、弟の行方不明さえも彼のせいにして、公私ともにパートナーのイタリア女性とのベッドの最中にすら電話をかけてきては愚痴をこぼす。


 ペルシャ人の娘は、頑固者の父と銃を買いに来ていた。小さな店を営んで自分を育ててくれた父を尊敬はしているけれど、その短気さはアラブ人がこの街で暮らすには危険なのだ。ほら、差別意識丸出しの野卑な白人の店主からの挑発に簡単にのってしまい、警備員に連れ出されてしまった。とりあえず赤い箱の弾丸と銃を買ってはみたけれど。


 若い白人の警官(交通課)は辟易していた。相棒の白人男は勤務17年のベテランだが、うだつは上がらない。奴はその憂さを黒人をいたぶることで晴らしている偏狭なレイシストなのだ。
 今日も、車の中で愛撫をしていたらしい身なりのいい黒人夫婦に難癖をつけて、武器所持を確認する名目で夫人の体をまさぐっていた。しかも、目の前の夫に謝罪を強要しながら。あぁ、ヘドが出るぜ。もう、こいつと組むのはゴメンだ。


 若い黒人のギャング二人連れは獲物を探していた。もっとも、俺たちゃそのへんのチンピラとは違う。仲間(=黒人)からは奪わない。俺達を蔑み、虐げる連中が獲物だ。 身なりのいい白人夫婦が高級車に乗りこむ。今だ。 たやすくモノにした高級車。軽口を叩いていたら衝撃が。アジア人のじいさんを轢いちまった。ちくしょう、とりあえず病院の前に放り出せ。売れなくなっちまったじゃないか。このクルマが。


 交通課勤務17年のベテランの白人警官は、ほとほとまいっていた。マイノリティの職を優遇する法律のおかげで、経営していた小さな会社と妻を失った挙句、病気にかかった父の世話で。ちくしょう、黒人どものせいだ。奴らのせいで、親父はこんな目に遭い、俺は出世できないんだ。ちくしょう。


 車を奪われた白人夫婦はすれ違っていた。普段からイライラしている妻は、ヒスパニックのメイドに当り散らし(こんな調子だから居つかない)、物騒だからと呼んだ鍵の取替え業者を「なんで黒人が来るのよ!どうせ、合鍵を作って売りさばくのよ!明日の朝には白人の業者を呼んで全部とりかえて!」と無茶を言う。鍵の取替えを行っている彼のすぐそばで。

 もっとも、なだめている夫だってロクなもんじゃないのだ。議員であるかれにとって、黒人やヒスパニックは「人」ですらない。単なる「票」の単位だ。「私が黒人にクルマを奪われたとは決して言うな」「何か、美談はないのか?黒人票を集められるような」。黒人の秘書が眉をひそめても、目に入ってなんていない。
 ・・・そうだ、黒人の刑事でデキるヤツがいるらしいじゃないか。あいつを使うのはどうだ・・・?


 交通警官に辱めを受けた黒人夫婦もまた、すれ違っていた。夫の目の前で屈辱にさらされ、しかも助けようとせずに白人に膝を折った夫。妻である自分を、彼自身の自尊心をたやすく差し出した夫への怒りが止ままらない。あらん限りの暴言でなじる妻。
 ・・・わかってる、わかってるよ。正しいのはオマエだ。オレの自尊心なんて、とっくに、そして毎日ズタズタなんだ。TVドラマのプロデューサーなんて格好のいい仕事なんかじゃない。今日も「黒人のくせにセリフが知的だ」と演出をやり直させられて。・・・オレがあの時「自尊心」を持ち出したら、一体どうなっていたんだ。この暮らしもオシマイなんだぜ・・・。

 
 仕事としてきちんと錠を取り替えながらも罵声を浴び続けた若いヒスパニックの男は、遅くに帰宅した。5歳の娘がベッドの下に隠れて彼を待っていた。・・・銃声が聞こえたのか。せっかく、そういうことの少ない地区に越してきたっていうのに。なんて世の中なんだ、全く。
 「心配ないよ。もし、オマエが信じるのなら、パパが身に付けている妖精のマントをあげよう。撃たれても平気な、魔法のマントを」「・・・でも、パパはどうなるの?」「パパはもういらないんだ。それに、娘が5歳になったら譲るように、っていうのが、妖精との約束だからね」「・・・ありがとう、パパ。これからは私がパパを守ってあげる・・・」



 やがて、彼らは街の中で出会い、個人的な恨みは何もないにも拘らず、互いを憎み、そして、各々が身の危険に直面します。

 命を奪う側、奪われる側として。そしてまた、助ける側、助けられる側としても。



 開始後30分は、胸が悪くなるほどの差別描写が延々と続きます。前半はやりきれない気分に沈みました。

 「人種差別」という互いの無理解。それは、私にはないのか? 否、ある。人種、といった尺度にとどまらず、自分が勝手に貼ったレッテルでいかに人を分類し、わかろうとしていないか。わかったつもりになっているか。

 「彼は○○なヤツだから△△だ」・・・。「ヤツは黒人だから犯罪を起こすんだ」。いったいどう違うのか。


 自分のセコいプライドを守るために、多くの人とのコミュニケーションを遮断し、見下す。「オレは悪くない」と言いながら。

 ささやかな救いもありながら、我が身を振り返っては苦い気持ちで見終えた映画でした。
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