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イル・ポスティーノ



 第二次大戦後の南イタリア。

 小さな島には戦争の傷跡も感じられない代わりに、時代そのものから取り残されたような美しさ、貧しさがありました。

 マリオは20代も後半に差しかかり始めたような青年。漁師の父と二人暮しです。

 寡黙な父に似合わぬ、ナイーブな息子。どうしたわけか、簡単な読み書きの出来る彼は、この島でのおそらくほぼ唯一の働き口であろう漁師にどうにも馴染めず、結局のところブラブラしているのです。父の厳しい視線を浴びながら。


 文明に取り残されたかのような村にある、(おそらく唯一の)映画館。そこでのニュース映画は村人たちを大いに喜ばせました。

 チリが生んだ現代最高の詩人、パブロ・ネルーダが軍事政権から故郷を追われ、なんと静養先にわが島を選んだというのです。愛の詩人で知られる彼の、その詩の対象でもある美しい妻とともに。

 快哉を叫ぶ村人の中には、マリオの姿も。そして、その帰り道に目にした「郵便配達人募集」のポスターから、彼は(人里離れた場所に居を構えたために、事実上の)ネルーダ専属の郵便配達夫の毎日が始まります。

 サエない毎日のマリオ。彼も人並みには女性に接したい。あぁ、ネルーダが「わが友へ」とサインをくれたら、女の子たちはボクに一目置くだろう! なんという妄想。ネルーダは名も知らぬ郵便配達夫の差し出す著書にサインこそしますが、もちろん「わが友」などではありません。そんなこと書いてやる義理もなく。

 落胆するマリオ。

 しかし・・・、その著書をめくるともなくめくるたび、簡単な読み書きしかできない彼にとって、(たとえば、郵便を配るための)単なる記号に過ぎなかった「文字」たちが、「詩」となって胸に迫ります。なんだ、この気分は・・・。

 翌日、覚えたての詩(ネルーダの)を本人の前で不器用に口ずさむマリオ。呆れながらも、初めて言葉を返すネルーダ。意味するところの感情が汲み取れているとは、とても思えないながらも、朴訥な郵便配達夫の中に「詩」が芽生えていることを感じたのでしょうか。

 「感情」を「言葉」を「隠喩」を、そして「詩」を徐々に教わるマリオ。意外にも才能を秘めていたのか、時には巨人・ネルーダをもうならせる言葉を口にすることさえ。

 ほとんど失業同然の若い男と、故郷を追われた情熱の(共産党員)詩人の間に友情が芽生え始めます。


「起きてください、ネルーダ!」、ある早朝、非常識にもノックするマリオ。
「なんだ、大事件か?」
「そうです。・・・恋をしたんです」

 サエない彼が恋をしたのは、酒場の美しい娘、ベアトリーチェ。

 きっと、かつてのマリオなら、何も伝えられないまま、その恋を諦めたことでしょう。が、彼にはネルーダに目を開かせてもらった「言葉」がありました。

「君の微笑みは、蝶のように広がる・・・」
 ・・・真っ青な浜辺にたたずむ美しい娘に囁く、純朴な青年。それまで、男といえば漁師か酔っ払いしか見たことがなかったであろう娘に、その「言葉」がどれほど甘美な衝撃であったか・・・。

 二人は恋に落ち、やがて恩人・ネルーダ夫妻の立会いのもと結婚します。そこへ届く、ネルーダへの帰国を赦す電報。

 全てがうまくいきました。全てが。ここで物語が終わったとしても、それを許さない人はいなかったでしょうに・・・。




 美しい風景、純朴な人々、そしてそれ故の残酷な・・・。

 美しい映画でした。人が人に出会い、何者かになっていき、そしてそれまでとは違った未来が始まる。それをある視点から描いてくれた物語です。

 そして、夢見心地の少年・少女時代を過ぎたヒトは、生々しい「世間」に漕ぎ出さざるを得ません。「言葉」は、「詩」は、そこでは予想を超えた力を持っていました。巨人・ネルーダさえ流浪に追い込むほどの。

 言葉とは、意志の発露。それは伝播し、大きなうねりさえ起こす。現に物語では、マリオは娘の一生さえ変えてしまいました。

 言葉なき意志、発露なき思索は力をもたないのでしょうか? とまでは言いませんが、他者に伝わってこその、鏡としての他者あってこその我。

 ヒトの運命が翻弄されようと、小さな島の自然は何も変わりませんでした。

 自分なら、どうする? 傷を恐れて、何もしないでい続けるのか? それとも・・・
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コメント

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No title

万人に自分の意思を表現する必要はないけれど 、大切な人や身近な人には自分の気持ちは伝え たいです。 例えそれが相手や自分を傷つけるこ とになった としても…アクションをやりとりし てこその人 間関係だと思います。
お互いにと って不可欠な関係なら、多少の傷は 治癒力があ るものと信じています。 逆に傷を恐れて何もし ないことは、相手の為で はなく、得てして自分 への防御のような気がし ます。
アクションを 起こしてこそ、ムーブメントがおこる。どんな結果にしろ、何もないより、何かが生まれるでしょう。結果良いことでれ、悪いこと であれ、それは何もないより人生を愉しくしてくれることだと思います。
小さな島で冴えない日々におくっていたマリオ にとって、ムーブメントが起こったことはやは り人生の深みになり、成長ですよね(*^-^*) イタリア映画、私も観てみたくなりました。

No title

sak*c*anさん、はじめまして。コメントありがとうございます。

この映画、全く知らなかったのですが、ほんの10年前の作品だそうです。なのに、40年位前のそれなのかと思うくらいのレトロな質感が素敵でした。リアルタイムでこの島を感じられるようで。
主演の俳優さんは余命わずかと知りながら、この作品をやりきったとのこと。なんでも完成半日後にご逝去されたとか・・・。

そう思って見ると、いっそう切なくて、3度も見てしまいました。

No title

へぇ~そーなんですか。 益々観たくなりました。 さくは同じ物語は眠くなっちゃって三回も観る のは不可能そうですが、そんなにも魅力的な映 像なのですね(*^-^*) 興味ありありです♪

No title

sak*c*anさん、こんにちわ。コメントありがとうございます。

どこにでも置いてあるかはわかんないですが、機会があれば見ても損はないと思います(笑)。ありがとうございました。