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仕立て屋の恋


 
「笑うだろうが・・・。僕は君を少しも恨んではいないよ。・・・ただ、死ぬほど切ないだけだ」

 イールは孤独な仕立て屋。腕は確からしいですが、ほんのちょっと人と関わるのが苦手な男です。
 
 色白の禿げ頭。ニコリともせず、シャツのボタンも一番上まで留める彼は、40代と思しきルックスながら、実年齢はもっと若いのかも。
 
 しかし、それは語られません。彼は誰とも口をきかず、アパートの住人たち(子供たちさえも!)からも好奇と嘲りの目を向けられているから。
 
 誰とも話さず、決まった時間に家を出て、一人で仕立ての仕事をし、また一人部屋に戻る。その毎日。きっと、未来も。
 
 彼の唯一の楽しみがありました。

 部屋の灯りを消して、向いのアパートに住む美しい女性、アリスの部屋を眺め続けること。うたたねも、食事も、着替えも、そして恋人との情事も・・・。

 ある雨と雷の夜。稲光に驚き窓の外を見上げたアリスは、向いのアパートの一室から無表情に自分を見下ろす男に気づきます。白い稲光に照らされる、真っ白な禿げた中年男の顔。その不気味さ、恐ろしさ・・・。
 
 近所で、若い女性の殺人事件が起きました。
 
 
 その日から、誰も訪ねなかったイールの部屋に二人の来客が現れます。
 
 一人は刑事。そしてもう一人は・・・、アリス。

 とてもハッピーエンドが訪れそうにない画面と、かと言って感情移入できそうもない主人公の幸せを祈る気にもなれず、居心地のよくないまま物語は静かに結末に向かっていきます。


 

 非常に居心地の悪い映画なのですが、これはと思った人につい薦めたくなる映画です。
 
 ほんのちょっと。そう、ほんのちょっと回路を開くのがうまくないだけで、誰かとの感情のやりとりの手がかりを失くしてしまった男。
 
 自分の醜さ、愚かさに囚われすぎて、心を開くことがとてつもない重荷になってしまった男。

 切ない、苦い、苦い映画です。
 
 とても好きな映画です。 もう何度も見たのに。
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コメント

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No title

この映画は思い出があります。前の夫と初めてのデート(?)の時に観ました(苦笑)なんか前夫は泣いていたわ。「え?」って思う、切ない映画でしたよねぇ。なんだかそれでも、確かに後を引く映画かもですね。この監督の映画スタイルでしょうかね。髪結いの亭主もなんとなく物悲しくて後を引く映画ですね。なんかホームさんが薦める気持ち分かる気がします。

No title

TOMYさん、こんにちわ。コメントありがとうございます。

「え?」って、思いますよね。私も思いました。なんちゅうか、誰もが持っていて、気づかないような、人前に晒したくないようなナイーブだかダークだか、身勝手なエロスを物語にするのが上手な人なんでしょうか。

何を言ってるのかは全くわかんないのですが、映画の中のフランス語って、素敵です。