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下町ロケット


 
・殿村だって、二十億円の金が欲しいに決まっている。なのに、特許の売却に賛成しないで、冷静に判断してくれといったのだ。銀行から出向して佃製作所に来てからというもの、ずっと資金繰りで苦労してきた殿村にとって、それがいかに苦渋の選択なのか、佃には痛いほどわかる。

・「(特許を帝国重工に)売らなければ彼らのロケットは飛ばない。スターダスト計画はそこで頓挫する」。その言葉に、全員が息を呑んで、佃を見つめた。「キーテクノロジーを我々は押さえているんだ。その強みを利用しないでどうする。いま帝国重工の提案を飲んだら、ウチの負けだ」

・(巨額の和解金が入った途端にもみ手をしてきた銀行に)佃は言った。「あんたたちから投げつけられた言葉や態度は、忘れようにも忘れられないんだよ。傷つけたほうは簡単に忘れても、傷つけられたほうは忘れられない。 同じ人間として、私はあんたをまるで信用できないんだ。自分の都合のいいときだけ擦り寄ってくるような商売はよしてくれ。いいときも悪いときも、信じあっていくのが本当のビジネスなんじゃないのか」

・(帝国重工の財前が佃製作所の)社内を歩き出して最初に感じられたのは、雰囲気だ。雰囲気がいい。(中略)「どうしてこんなものを作ろうと思ったんです?」「あえて言えば、チャレンジかな」「御社にとって全く無駄になるかもしれない技術でも、ですか?」「無駄にはしませんよ」佃は断言した。「ロケットに搭載する技術は、ネジ一本に及ぶまで最高の信頼性が要求される。こうした研究は、今後の生産活動に必ず生きてくるはずだ」

・(帝国重工の悪意ある立ち入り検査で)「俺たちは真剣に計画を作ってるのに、鉛筆をなめればいくらでもできるなんて、何の根拠があって言ってるんですか」「なんだと!」「中小企業未満ですね、あなた。しっかり評価する気がないんなら、止めませんか。迷惑です」(中略)「こんな評価しかできない相手に、我々の特許を使っていただくわけには行きません」田村が青ざめるのがわかった。自らの評価態度が原因で、特許使用まで拒絶される事態になれば、責任論が噴出するからである。

・(テスト成功の一報を受けて)「殿村部長、音頭とってくださいよ」(中略)殿村は声を張り上げた。「佃品質を帝国重工の連中に知らしめてやりました!」「やったぜ、みんな!それではご唱和願います!佃品質と我々佃プライドに万歳!」
 
 
 

 熱意や情を軸にした小説の多い池井戸潤氏の代表作。元ロケット開発者で、打ち上げ失敗と父の工場を継ぐことが重なり、下町の町工場の経営者となった主人公が、特許をとったバルブを武器に超大手を向こうに回してロケット開発に参加するという小説です。

 小説(しかも週刊誌連載)であるため、当たり前ながらドラマチックな起伏、誇張された登場人物に溢れていますが、その骨子は「プロジェクトX」同様の、裏表のないひたむきな熱意です。
 
 私にとって、この小説の何が胸を打つのか。相手が誰であれ自分(姿勢・技術)を信じ、成し得たいことに向かって戦う姿はもちろんなのですが、その「戦う」ときのために、自分たちを高める準備を絶え間なく続けている点です。

 小説ではありますが、主人公の会社は長年の黒字経営と厚い内部留保の健全経営。従業員一人ひとりが優れた技術を持ち、企業総体としての技術力・開発力は、国内トップレベルという設定。これがあってこそ初めて可能な、超大手企業相手の大立ち回り。いや、そもそもその機会の訪れ。

 
 弛まず地力をつけ続けること、目先にとらわれずに己を高め続けることあってこそ、決断できる、それがブレないということに感動いたしました。主人公は口だけではない人物です。その仲間たちも。
 
 発表の場、その機会の有無にかかわらず、毎日を裏表なく生きること。そして、そうした積み重ねあってこそ、突然訪れる「その機会」に、たとえ不器用であっても後悔ない振る舞いができる。いや、それなしにはできない、ということを痛快な物語とともに感じた次第です。
 
 ドラマは待っていても訪れない。準備を続け、機会を捉えてこそ、ドラマを生むことができる。それは日常に於いても必ず。そう、信じたい。
 
 
 私がこういう話を好きなことを知っているせがれが、学校の先生から借りてきてくれました。それもうれしい一冊です。
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