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太陽を盗んだ男



「誰にでも原爆はつくれる。プルトニウム239さえあれば」


    城戸は、パッとしない独身男です。中学3年の担任でもある理科教師ながら、授業はほぼ自習、生徒からはナメられっぱなしと、全くのボンクラ。恋人も友人も、親族さえいない様子で、(遅刻常習のクセに)今日も生徒と同じ時間に学校を出ては、地味な公営アパートに帰るだけの毎日。

    が、誰も興味を持つはずのない彼の私生活は、誰もの想像を絶するものでした。


    彼は、原爆をつくろうとしているのですから。

 
    壁一面には難解な数式と原子力発電所の見取り図が貼られ、部屋を埋める奇怪な実験室のような器具たち。アパートの一室は、居住空間ではなく彼の野望の花園。

   サエない男は、早朝に原発を下見しては侵入計画を練り、体を鍛え、原爆製造の器具を揃えていきます。その器具とは、電子パーツや調理器具等々、どこでも買えるものがほとんど。だって、「誰にでも原爆はつくれる」のですから。

   ここまでならば、単なるファンタジー。鉄道模型やクルマいじりと、基本的には同質と言ってもいいでしょう。今で言うなら原爆製造ヲタク、でしょうか。いるのか、そんな奴。

   が、城戸は本気でした。派出所の警官に手製の催涙ガスを浴びせての拳銃奪取。まさかの一線、超えちまいました。


「プルトニウム239さえあれば」

  そう、あと足りないピースは日常では絶対に入手不可能な物質、プルトニウムのみ。派出所を襲う以上のハードルです。

   闇夜に乗じて、拳銃片手に黒づくめの中学教師が原発に潜入します。放射性物質を保管するケースの輝きと銃撃戦は、どこにもいない男である彼が何者かになるためのジャンピングボードであるかのように。

   行く手を阻む警備員たちを銃と火炎放射器で追い払い、用意の爆弾を炸裂させ、城戸は姿を消します。原発から、平穏な日常から。


   アパートの一室。極度の緊張を強いる作業の果て、やがて完成する原子爆弾。ラジオから流れるボブ・マーリーに合わせての祝杯は、一体何を祝うのか。

   テレビでは原発襲撃のニュースが流れます。想定されている犯人像は過激派一味と、城戸は全くのノーマーク。が、それはこれだけの事をしでかしながらも、相変わらず誰からも顧みられない存在であることをも示します。


   城戸はプルトニウム部分のみを抜いた(シャレで梅干を代わりに入れといた。ファンキーっす)原爆の精巧なレプリカを国会議事堂に置いてきました。そして公衆電話から日本政府へ、10円玉ひとつで成される「宣戦布告」。

   我が名は「9番」。なぜならば、昨日までに世界に現存する核保有国は8つ。今日、自分がその9番目として現出したのだから。俺は「国家」である。日本国以上の力を持つ男なのだ、と。

   震撼する政府、警察。そのレプリカの完成度からして、本物の原爆の存在は疑いようがありません。

   しかして、その要求は・・・。「そうだな・・・。今、TVでやってるナイター中継を試合終了までやってもらおうか」。

   んぁ???? なんだ、コイツは? 精密そのものの原子爆弾はシャレにならねぇが、その要求は何だ。バカバカしくも要求に屈する政府。野球中継の延長という「勝利」を城戸は勝ち取ります。


   そう、城戸は暴力を背景に、日本国に自分の要求を通したのです。「戦争を仕掛けて、勝った」のです。

    が、彼には次の要求が思い浮かびません。何も。

    国家を恫喝できる(しかも勝てる)だけの力を手にしながら、何も変わらない日常。貧しいアパートには相変わらずクーラーさえなく。


    ・・・否。ふたつの変化が起きていました。

    一つは、ひとりぼっちの彼にやっと出来た話し相手。この事件の担当である山下警部(もちろん城戸が欲している「友人」として接してはくれないのですが)。

   もう一つは、放射性物質に触れ続けたが故の、身体の変調。



   もはや、他者との回路も自分の未来もありません。いや、自ら手放したのですから。

    時折エサをやっていた近所の野良猫が、放射能にやられて死ぬ様を見て腰を抜かした城戸に、現実に大量殺人の意思など、もともとなかったのでしょう。
    愉快犯程度の要求しか思いつけないままの彼は、その爆弾が人々にもたらす災いを想像もできないまま、蝕まれる身体に次第に捨て鉢になっていきます。

    対峙するは、想像外からの挑戦に鼻づらを振り回されながらも、鋼の意志と組織力で徐々に城戸を追い詰めるリアリスト、山下。

   

   ・・・一体、どうなる?







    久しぶりに見ました、「太陽を盗んだ男」。

    2時間半もあるのですが、改めて見るとそれほど長さは感じませんでした。特に原爆完成までの前半のテンポ、とっても素敵です。

    そして、自分と爆弾を持て余しながらの、カーチェイスあり爆発あり、パトカー吹っ飛ぶ、ヘリから人が落ちるの大活劇は相当な力作でした。いや、頑張ってます。本当に。

    中身空っぽの中学教師を演じるジュリーの素敵ないい加減さ。鋼鉄の男・山下は男のアイコン菅原文太。どクズと熱血漢の対比も素敵。

    私は評論家じゃないので、世相がどうとかは言いませんが、よくこんなアナーキーな映画つくったな、って思いましたわ。犯人は最後までひとりぼっち(途中、なぜか美女の協力を得られる。それはジュリーだから仕方ないか)で、ネットもスマホもない時代に、よくこんな話つくれたなーって。8830011212

   ジュリーの嘘八百のドラマに彩られた「歌謡曲」、今でも大好きです。文太兄いの「トラック野郎」も大嘘ファンタジーでした。もちろん大好き。

   2時間半、大嘘をけっこうリアルに楽しませてもらいました。リメイク、しなくて結構。この雰囲気はなかなか出せそうにないから。

    やるとしたら・・・。うーん、やっぱりジュリーの役は野村萬斎かなー。文太役はどうしよう?
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コメント

非公開コメント

No title

おもしろそう (∩´∀`)∩
ジュリーが人知れず地味でいられるかは別として(笑)

しかしポスターもすんごいファンキーだねこれ (´・ω・`)

No title

あきらさん、こんにちは。コメントありがとうございます。

さすがに古い映画なので、ちょっとだるい部分もなくはないですが、面白かったです。

ポスター、知らなかったけど、横尾忠則作とか。かっけー\(^o^)/

No title

こんばんは〜☆
homeさんの記事だけでも十分おもしろそうです!
おしゃれな上に、内容は凄いですね(笑)
今はリメイクは難しそうな題材じゃないでしょうか。

No title

はのはのさん、こんにちは。コメントありがとうございます。

いや、もージュリーも文太もスタアなんですよ。かっけーのなんの。

いきあたりばったりテロリストの話しなので、リメイクは確かに無理っぽいですね(´・_・`)。やるならコメディか?それならやめとけ(笑)。

No title

あらためて訪問させてもらって、いささか驚いています。カープファンということは広島の方なのでしょうか(僕は広島市内在住です)。
何より『太陽を盗んだ男』に出合えるとは思いも寄りませんでした。ヤフーブログで同映画のレビューを目にしたのは初めてです。極私的な思い入れもあり、日本映画で最も記憶に残っている作品なので(もし気が向いたら当方の書庫【超掌篇エッセイ】を覗いていただけたら幸いです)。

No title

H.Kさん、こんにちは、コメントありがとうございます。

私も広島在住です(笑)。よろしくお願いいたします。

「太陽を・・・」、インパクトのある作品ですよね。実は鷹の橋サロンシネマ閉館記念興業でかかってて、そこで初めて映画館で見たのですが、DVDとは全く別物でした(「見に行った」とう書庫に書きました)。

「超掌篇エッセイ」、拝見させていただきました。得難い経験を多くされているのですね。大変興味深かったです。ジョニー大倉、かっこよかったですよねぇ。